人類が最初に語ったコトバ !?

 間違っても気軽にかけられるディスクじゃない。輪ゴム、実験用フラスコ、分解したハーモニカ、幼児の靴の片割れ‥‥。こんなモノたちが擦られ、息を吹き込まれ、激しく軋みをあげる。手を下しているのは川仁宏という男。1933年生まれ、50年代より政治と芸術の横断領域で活躍し、赤瀬川原平の<千円札事件>懇談会事務局長、現代思潮社編集長を経て82年に「ライヴ」を開始。以来、小杉武久、灰野敬二らと共演を重ねる。その「ライヴ」の片鱗を記録した最初の録音物がこれ。しかしその異形の音は伝説的な経歴の放つアウラを霧散させてしまうほどなまなましい。クライマックスは川仁が「フーゴー・バルが‥‥」と唐突に呟く部分。朗読というにはあまりに意味不明瞭、ヴォイス・パフォーマンスというにはあまりに音楽を指向していない。まるで人類が最初に語った言葉のようだ。もう一度いう。間違っても気軽にかけられるディスクじゃない。だがそんな音だけが開く世界がある。彼はパーキンソン症候群と闘いながら現在は車椅子で活動中だ。

フラッシュ・バック / 川仁宏
モダーン・ミュージック/PSFレコード PSFD-130

追記:川仁宏さんは2003年2月5日、肺炎のため亡くなりました。  


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