熱い!暑い! 第5回アジア・パフォーマンス・アート連続展

 アジアのパフォーマンス・アーティストを紹介するフェスティバル、「アジア・パフォーマンス・アート連続展」は今年で5回目を数える。マカオ、香港、名古屋、東京、長野と続いたうち東京の最終日に足を運んだ。

 今回の参加アーティストの国籍を挙げるとタイ、インドネシア、ベトナム、ミャンマー、イスラエル、韓国、中国、日本、それにイギリスからのゲストを併せて9カ国に上る。パフォーマンスという表現手段、つまり身体を基礎に空間、時間軸を操作するという手法が、すでに世界中に広がっていることを確認するに充分な質と量を持つ内容だった。パフォーマンスを60年代や80年代の流行とするのは欧米にしか芸術がないと思っている無知な輩に過ぎない。身ひとつで表現できるというのは貧しくそして伝統から引き離された者達にとって大変な利点であり、パフォーマンス・アートは都市プロレタリアートの最大の表現武器だ、というのは少々言い過ぎかもしれないが。狭い会場にすし詰め、その上クーラー故障の蒸し風呂状態という最悪の環境(いや最高なのかな)の中で3時間以上に渡って繰り広げられたパフォーマンスを、ほとんどの人が最後まで見続けたのはパフォーマーも観客も相当、熱を帯びていた証だろう。

 とはいえ他の伝統的なジャンルと異なり、技術的メソッドがない、だから誰でも思い立ったらすぐできるという特質は、同時に短所でもある。この日もただの自己満足や私的な内省に過ぎないものが見られたのも事実。「暑いんだから、えーかげんにせーよ」とでも言いたくなる。

 という基本的な事実を押さえた上で個々の作品で特に面白かったものに触れてみよう。
 ちょっとびっくりしたのがM&T(日本)のパフォーマンス。コスプレ女性2人が出てきて、水鉄砲で戦闘を始め(しかも客席で)、最後は観客に鞭をふるって一緒に踊らせるという傍若無人ぶり。2人の度を超した騒々しさがポップなだけでなく一線を越えたパフォーマンスを形作っていた。さらに驚いたのがこのグループ、人前でやるのが初めてらしい。うーん、転び方によっちゃ第二の明和電機になりますよ。

 ベトナムのホアン・リーは25歳のパフォーマー。連れだした観客にいろいろな姿勢をとらせながら、水とさまざまに戯れる。民族的な衣装を脱いでいく。美しい歌声と相まってユーモラスで荘重な儀式であった。いくぶん感情的な表情から鑑みるにいろいろ象徴的な意味があるのかもしれないが、文化的コンテクストを共有しない我々には分かりにくい。でも分からなくとも充分面白い。いろいろな意味で近さと距離を感じさせるパフォーマンス。最後には舞台は水浸しだった。

 荒井真一は日本では珍しく政治的な含意を強烈に持ったパフォーマンス・アーティストであり、今回もその本領はいかんなく発揮されていた。自らの体験から天皇を語りはじめ、尻で日の丸を描き、『戦争論』を食べる(!)。自らの身体を限界にまで追い込むので見ている方も息苦しい。日本のモダニズム芸術が失った直接性がここにはある。

 私の見た限りで共通する傾向をあげるなら観客への積極的なアプローチということになるだろう。といっても決して演者と観客の垣根を取り払おうといった肩肘張った、あるいは挑発的なものではなく、とても自然に、当たり前になされていたのが印象的だった。時には単に人手が足りないから観客を使ってるかのような態度で、とても好感が持てる。おそらく彼/彼女らの通常の環境がそうさせているのだろうか。その意味では最高の会場であった。

 最後に日本を代表するパフォーマーであり、この会及びNIPAF(日本国際パフォーマンス・アート・フェスティバル、こちらはアジアに限定しないパフォーマンス・フェスティバル)を継続する霜田誠二氏の健闘をたたえたい。公的に認められた作品の成果だけを見せる文化交流ではなく、このような地味で息の長い、そして具体的な触れ合いだけから文化は生まれるのだから。

(8月2日 東京、明大前キッド・アイラック・アート・ホール)


コメント:ホントに暑かったのだ。記事は荒井真一の写真付きで掲載された。

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