音楽工作所趣旨

 

 「音楽工作所」は音楽、あるいは音を扱った実験的な活動、また他のジャンルとのコラボレーション、境界線上のさまざまな試みを毎回3〜4組、紹介していきます。出演者はいつもの活動の延長線上で発表するかもしれませんし、いままで全くやったことのないことを披露するかもしれません。
 1つの回に取り上げる作品同士の間には特に関係やテーマを設けません。敢えてとりとめなく、異なる系統の作品を並置して、出演者と観客相互にとって新しい関係が生まれること期待しています。
 またこの企画では入場料をとにかく安く、その上で出演者に少しでもギャラを出すことを目指していきます。

 この企画を開始するにあたって考えていたことがいくつかありますので、それを書いておきます。

 私は以前「音、あるいは耳について」という企画を行っていました(詳しくは足立智美ホームページの「音、あるいは耳について」をご覧下さい)。その企画は赤字をだすこともなく、また幅広い出演者、観客の関わりを創り出すことができたと思っています。「音、あるいは耳について」が1997年で一旦終わったのは、私の活動場所がライヴハウスに移行していったという事情もありますが、毎回プロデュース形式ごと考えなおしていたため、疲れてしまったという面も正直あります。また規模が個人でやるには大きくなりすぎたという面もあります。
 今回また新しく企画を始めるのは、ライヴハウスでやる音楽とは違ったことをまたやりたくなってきたこと、そして周囲を見渡すとどのスタイルにも属さないことをやる場所がないということがきっかけになっています。そうなれば自分で場所をつくらなければなりません。興味深いことをやっている人たちも大勢います。以前のように毎回、違った場所で違ったテーマでと考えるとたぶんすぐ面倒になってしまうでしょう。だから同じ場所でいろんな人を呼んで、そして自分はとりあえず毎回違ったことをする。そんなつもりで飽きるまでやってみようと思います。
 ところで、日本のイヴェント、コンサートなどの料金は高すぎると思いませんか?公共の施設による企画は別にして、大手興業会社から自主企画まで、例えば音楽なら1公演、最低2500円取るというのが常識のようです。別にそれで客が入るなら問題はないでしょうし、自主企画なら自主企画での苦労もよく分かります。でも皆さんそんなにお金持ちなのでしょうか?
 とりあえず芸術にとってお金は本質的な問題ではありません。しかし意識は社会に規定されます。入場料というのはその芸術の質の一部といってよいでしょう(もちろん質のよしあしではなく)。同じ音楽を聴かせても1000円とってやるのと5000円とってやるのは質自体をかえてしまいます。
 実験というのは全然面白くないかもしれないし、失敗もあるかもしれません。失敗するかもしれないことを2000円とってやるわけにはいきません。でも1000円なら観客も出演者も納得するのではというのが、私の考えです。1000円ならちょっと関心があるだけの人でも気楽に訪れることができるでしょう。そこで全く新しい体験があるかもしれません。入場料を安くするというのは芸術家と観客の新しい対流関係を生み出すための一つの試みです。
 さて、この試みに参加するかは後はあなたの問題です。一度見に来て下さい。

足立智美

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